2023年09月22日

一位の実

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.21第一面より引用掲載させていただきました。
一位の実濡れて夜明けの
   軽井沢
    小暮陶句郎『薫陶』

 陶芸家にして俳人。句集名薫陶に重いがこもる。伊香保に生まれ、そこに在住する作者にとり、峠を越えた軽井沢は憧れの地であった。
 竹久夢二が滞在したロマンの伊香保とは違った知的でリアルな雰囲気に惹かれたものか。
 「杉の実や信濃の風は詩の如く」がある。地味な杉の実の造形から風に詩情を感じるのは陶芸家の感性だ。
 秋の夜明けの軽井沢は霧に包まれる。赤い一位の実が濡れている。流離の思いがジーンと身を走る。(宮坂静生)
  


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2023年09月21日

赤蜻蛉(あかとんぼ)

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.21第一面より引用掲載させていただきました。
目に見えぬ水面が空にあるゆゑに秋津は等しき高さに群るる   柴田典昭『野守の鏡』

 夕方、限りない数の赤とんぼが浮かんでいる。彼らは地面から同じ高さを保って飛んでいる。まるでそこに水平に水をたたえた水面が横たわっているかのように。
 赤とんぼは、その水面を滑るように漂っている。彼らの目にはその位置が確かに見えるのである。
 「秋津」はとんぼの古名。日本列島が「秋津島」と呼ばれた事からも分かるように、とんぼは昔から土地の豊かさの象徴だったのだ。(大辻隆弘)
  


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2023年09月20日

秋彼岸

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.20第一面より引用掲載させていただきました。
ひとごゑのさざなみめける
  秋彼岸
   森澄雄『空艪』

 秋の彼岸入りを迎えた。墓参りの墓地に散らばる人々の声を耳にした実感を心地よく表現したものか。
 暑さも収まり気持ちよくなった。夏の間のとげとげした苛立(いらだ)ちも消えた。素直な作者である。それだけではない。雰囲気の捉まえ方に独特の感性が働いている。
 人間対自然という論理的に分析して考えるのとは違う。人間も自然も抱含した造化という大きな考えへの憧れがある。身を任せるのである。
 人の世の習わし、秋彼岸への優しい眼差しがある。
                   (宮坂静生)
  


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2023年09月20日

夕顔

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.19第一面より引用掲載させていただきました。
夕顔の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我がいのちかも   正岡子規『子規歌集』

 今日は糸瓜(へちま)忌。正岡子規の忌日である。近代日本の詩歌の改革に邁進した彼は、1902年の今日、35年の生涯を閉じた。
 この歌は死の前年の春に作られた歌。夕顔の棚を作ろうと思うけれど秋までは永らえることのできない命であるよ・・・。彼はそう嘆いた。
 が、子規は、それから1年5ヶ月、生きながらえ、2度秋を迎えることができた。人生最後の秋を彼はどんな目で見たのだろう。(大辻隆弘)
  


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2023年09月19日

貝割菜

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.18第一面より引用掲載させていただきました
足音の戻っては来ず貝割菜(かいわりな)     三和幸一『宇治川』

 足音はさりげない日常のシグナルである。いくぶん引きずり気味なのは母の音。遠足のとんとん弾むのは明るい妻。どたどた大きな音の塊は成長盛りの子ども。暗黙の聞き分けで面影が浮かぶ。
 単純な暮らしは聞きなれた音の連なりで気持ちがいい。
 ところが市か足音が消えたのである。前菜の大根の芽を虚(うろ)抜いた。そのまま足音が消えてしまった。
 虫の音はしきりに聞こえても、コトコトもトントンもしない。面影も淡くなってゆく。(宮坂静生)
  


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2023年09月16日

蜘蛛の巣

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.16第一面より引用掲載させていただきました。
秋の夜のこころ変はりかつねに巣の真中にゐし蜘蛛けさは見えざり   木村寛子『木蓮坂』

 今年の夏が異常に暑かったせいか、少し涼しくなった今ごろになって、虫たちの活動が活発になってきた。
 巣の中央でふんばって、獲物が罠にかかるのを待っていた蜘蛛。その姿が今朝は見えない。いったいどうしたのであろう。作者はそう思う。
 秋の天候は変わりやすい。それに伴って気分も揺れる。ひょっとしたら、あの蜘蛛も私と同じように心変わりしたのかしら・・・。そんな感慨がよぎる。(大辻隆弘)
  


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2023年09月15日

老人の日

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.15第一面より引用掲載させていただきました。
老人の日の蛇(くちわな)が呑む卵   岩田 奎『虜(はだえ)』

 今日は老人の日。老人に自己啓発を促す日とか。蛇が鶏卵を呑む場景に眼を留めた。蛇もなかなかやるよと感嘆したものか、元気づけられたのである。
 65歳以上を高齢者とWHO(世界保健機構)の区分でみなされているが、日本は超高齢社会へ入っている。2022年の統計では、65歳以上の人口はおよそ3623万人、総人口の割合では高齢化率29%という。75歳以上の後期高齢者になって初めて、老人を意識し始める者も多い。老人の力は大きい。(宮坂静生)
  


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2023年09月14日

秋めいた空気

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.14第一面より引用掲載させていただきました。
秋めいた空気ひんやり包まれた手のあたたかさ際立てるのね   金沢青雨『またね』

 朝、家を出るとすこしだけ空気がひんやりしている。猛烈な残暑が長く続いて疲れ果てたけれど、秋が来ているなあ、と思う。
 その空気の中を歩いていると、手のひらがほんの少し温まっている。多分、冷たい空気に触れたことによってそんな体感が生まれたのだ。手のあたたかさが際立つ。作者はそこに小さな秋を発見したのだ。
 いつの間にか白露。暦の上では秋真っ盛り。(大辻隆弘)
  


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2023年09月12日

月の光

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.12第一面より引用掲載させていただきました。
月の光を気管支に溜めねむりゐるただやはらかな楽器のやうに   永井陽子『ふしぎな楽器』

 昨夜は十六夜だった。月の光の下にいると、キラキラした光の粒子が口元から胸に入ってくるような気がする。胸のなかで、その粒子がきらめき続けているような気がする。
 作者もそうなのだろう。月の光を浴びながら眠りにつく。光の粒子は私の気管支をゆっくり降りてゆくだろう。そして私のからだはやがて白銀に輝き出すのだろう。まるで柔らかな寝入りをかなでる一束のフルートのように。(大辻隆弘)
  


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2023年09月08日

脚立

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.09.08第一面より引用掲載させていただきました。
脚立とは珊瑚にポンと降りるもの脚の捌(さば)きのかろかろし頃    井野佐登『星越峠』

 庭に職人さんが来て、木の剪定(せんてい)をしている。秋空に高い脚立を立てて鋏(はさみ)を振るう。剪定が終わると、彼は脚立を降りる。あと一段、というところで、両足をあわせ、ポンと地面に降り立った。そんな情景を作者は見たのであろう。
 ああ、脚立はこんな風に降りるのだった。私も若い頃はこんな風に降りたのに。作者はそんな風に思ったのだろう。私にもあんな足の捌きができる日があったのだ。(大辻隆弘)
  


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