2023年12月29日

面影と冬銀河

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.29第一面より引用掲載させていただきました。
面影は言葉をもたず冬銀河   岩井かりん『岳俳句鑑Ⅵ』

 目の前にいる人は次の瞬間には言葉を話す。ところが、思い浮かべる面影からは言葉は生まれてこない。話しかけても言葉が返ってこない。笑顔も笑っているだけ。
 冴えた冬銀河を天上に懸け、掲句の「面影」は亡き人のそれ。同じ表情がいつもそこにある。言葉がない。
 言葉とは生きている者だけが使えるいのちなのだとは、発見がある。
 言葉煮よって冬銀河も生まれる。言葉を知らなければ、冬銀河が存在しないと同じ。今年も言葉の世話になり感謝している。(宮坂静生)
  


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2023年12月28日

寒ブリ(鰤)

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.28第一面より引用掲載させていただきました。
鰤(ぶり)が人より美しかりき暮れの町  
    加藤楸邨(しゅうそん)『まぼろしの鹿』


 わが家は没落した海産物問屋であった。私の少年期は戦後の貧乏のどん底暮らし。しかし、年末の能登鰤が入荷する躍動感ある光景は忘れ難い。鰤が輝く。
 掲句は戦後の日米安保改定阻止闘争が条約自然承認により解散した翌年1961年の作。楸邨の中に人疲れ、歳晩の自然の鰤への共感があったものか。
 少年の日以来、鉄道員の父親の転勤で転校を重ねた流転暮らしから自然への親近感が身に付いている。
 生鰤の鱗の青さこそ。(宮坂静生)
 
  


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2023年12月27日

雪が降る

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.27第一面より引用掲載させていただきました。
この雪はいつまで続く空深くコントラバスの鈍き音する    福士りか『大空のコントラバス』

 同じ日本列島に住んでいても、関西の人と東北の人では、雪に対するイメージが大きく違う。私のように雪の降らない地方で生きてきた人間は、雪が降るとロマンチックな気分になる。が、雪国の人はそんな呑気なことは言っていられなし。雪は暗鬱(あんうつ)な季節の象徴なのだ。
 作者は青森在住。鉛色の空から雪は永遠のように降り続く。空の奥からコントラバスの低く鈍い音が聞こえてくる。(大辻隆弘)
  


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2023年12月26日

風呂吹きとポトフ

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.26第一面より引用掲載させていただきました。
数へ日のたましひ乾きゐて暮るる    別所真紀子『風曜日』

 あと一週間足らずで今年も暮れる。数え日だ。忙しい。潤いがない。たましいが乾いた感じとは年末の余裕のなさを巧みに捉えている。
 余裕のなさとは自分の思いばかりに捉われ、きりきり舞いの状態をいうものか。その出口を探すために作者は料理の煮物をしていた。
 「練辛子つんつん風呂吹あつあつに」「ゆつくりとポトフと言葉煮てをりし」
 これはなかなかの知恵。「風呂吹」や「ポトフ」が出来上がる。その間に「言葉」が潤む。(宮坂静生)
  


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2023年12月25日

雪を押しやるワイパー

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.25第一面より引用掲載させていただきました。
鬱(うつ)っぽい音をきしませてワイパーは霙(みぞれ)まじりの雪を押しやる   
          清水春美『風のままに』


 朝、エンジンをかけて出勤しようとする。フロントグラスには水気の多い雪がつもっている。
 ワイパーのレバーを倒す。ワイパーは雪の重みに苦しんで、きしんだ音を立てて動き始める。雨粒だったら弾き元気に飛ばせるのに、雪になるとその動きには鈍く苦しげだ。ギギ、ギギギ、ギギギギ。ワイパーの腕はきしみながら、ゆっくりと昨夜の雪を左右に押しやってゆく。作者は奥美濃郡上に住む歌人。(大辻隆弘)
  


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2023年12月23日

孤独

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.23第一面より引用掲載させていただきました。
孤独とは人の持物(もちもの)年の空    河内静魚『水の色

 今年も暮れる。待ちを歩く。時間という乗り物に乗って、みんな忙しく過ぎてゆく。どこへ行くんだろう。
 並木のイルミネーションが華やかに輝く。ウインドーが真昼のように明るく透明だ。宝石の中を漂う感じ。
 孤独は胃袋のようだ。あの人もこの人も大事に体の中に持っているだろうな。パスタを食べる。お腹は膨れるが楽しくない。だめか。コーヒーを飲む。苦い。ちょっといい感じだが、それがどうした。だめか、
 先生が死んだ。友達がばたばたとお逝った。そろそろ番かな。(宮坂静生)
  


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2023年12月22日

ろくでなし

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.22第一面より引用掲載させていただきました。
「ろくでなし」越路吹雪に歌われて、陰口は言ったもん勝ち   川田由布子『水の月』

 往年のシャンソン歌手・越路吹雪。彼女は新潟で育った。その名はそのことに由来するらしい。いかにも冬にふさわしい凛とした名である。
彼女のヒット曲に「ろくでなし」という歌がある。まわりの人々から「ろくでなし」と陰口をたたかれる女性の歌だが、彼女は豪快に明るく笑い飛ばすようにそれを歌う。陰口は言ったもん勝ち。でも越路吹雪のように、人の陰口を笑い飛ばすことができたなら。(大辻隆弘)
  


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2023年12月21日

狐火

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.21第一面より引用掲載させていただきました。
狐火(きつねび)の紅蓮終生まなうらに   黒田杏子『八月』

 蕪村の句「狐火や髑髏(どくろ)に雨のたまる夜に」が知られている。
 狐火は鬼火ともいい、野晒(のざらし)の亡骸(なきがら)からリン化水素が燃える闇夜の妖しい怪火。子どもの頃、狐が口から吐く火と老婆から聞いた咄(はなし)が忘れ難い。冬の外厠(そとかわや)には恐ろしくて行けなかったものだ。
 掲句の作者も、狐火がいつも眼裏にちらちらしたという。体調がすぐれない時などに、いっそう気になったものか。日本列島の桜を訪ねた巡礼を果たした作者には狐火も燃え立つ紅蓮とは凄い。(宮坂静生)
  


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2023年12月20日

寒い12月の朝

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.20第一面より引用掲載させていただきました。
この朝は薄き食器に触れえぬと手の冷たさを手が主張せり   源陽子『百花蜜のかげりに』

 陶器はその厚さによって手触りが違う。肉厚の土鍋はなんとなく暖かい。が、薄く作られた白磁は触るとヒンヤリとする。
 寒い12月の朝。作者は台所で食器を手にする。薄い食器に手が触れると手が「痛い!」と叫ぶ。そう錯覚ししまうほどひややかなのだ。
 冷気というものは身体の部位を際立たせる働きがあるらしい。冷気に触れた部分が、痛みとともにその存在を首長してくる。(大辻隆弘)
  


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2023年12月19日

カジカ鍋

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2023.12.19第一面より引用掲載させていただきました。
鍋破(なべこわし)酒は生酛(きもと)の日向燗(ひなたかん)   許勢(こせ)元貞『蝦夷富士へ』

 北海道の句である。迫力がある。身を入れて詠まれている。
 「鍋破」とは鍋壊とも書く。冬のカジカ鍋。ぷりぷりした食感が好まれる。根菜類を入れ、味噌でしめた鍋料理。名に凄みがある。箸で突いて鍋を壊すくらい美味いということから。酒は米と麹を擂潰(すりつぶ)しどろどろにした濁酒状の濃いもので、燗は日向の温(ぬる)さがいいとか。
 句は民謡調の弾みがある。「鍋破喰うたる夜の深眠り」とも詠われ、よき時、よき所のよか食物に破顔一笑の作者が見える。(宮坂静生)
  


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