2025年02月14日
バレンタイン
おはよう!「今日の名歌と名句」
※日本農業新聞2025.02.14第一面より引用掲載させていただきました。
『万の枝けぶらふバレンタインの日』 石田郷子『万の枝』

女性が男性にチョコレートを贈る。お洒落な日のイメージだけが日本では独り歩きしてこの日が哀しい日とは大方は忘れられている。 戦の最中、ローマ皇帝は兵士の結婚を禁止したのに反し、ローマ司教バレンタインが愛の崇高さを守り、式を挙行したことにより殺される。
掲句はこの謂われの飛躍を上の句にけぶるように滲ませる。西欧流のバター臭さがない。秘めた思いが冬木の虜を潤ませるようだ。やがて芽吹く安らぎが用意された心の豊かさが句中に拡がる。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.14第一面より引用掲載させていただきました。
『万の枝けぶらふバレンタインの日』 石田郷子『万の枝』

女性が男性にチョコレートを贈る。お洒落な日のイメージだけが日本では独り歩きしてこの日が哀しい日とは大方は忘れられている。 戦の最中、ローマ皇帝は兵士の結婚を禁止したのに反し、ローマ司教バレンタインが愛の崇高さを守り、式を挙行したことにより殺される。
掲句はこの謂われの飛躍を上の句にけぶるように滲ませる。西欧流のバター臭さがない。秘めた思いが冬木の虜を潤ませるようだ。やがて芽吹く安らぎが用意された心の豊かさが句中に拡がる。(宮坂静生)
2025年02月12日
氷魚
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.12第一面より引用掲載させていただきました。
氷に上(のぼ)る魚の眼の剣なす 篠遠良子『硝子の時間』

「魚氷に上る」という季語がある。二月半ばの時候に関し、中国伝来の民間の暦から江戸の歳時記『滑稽雑談』などに取り入れられた。初春の陽気に魚が泳ぎ出し、氷に躍り出るという。
掲句はその魚の目が剣のように鋭いと空想の季語に緊迫感を付加し現実味を出したもの。同一季語にこんな句もある。
〈魚は氷に上り人魚になりたき子〉アンデルセンの童話『人魚姫』やギリシャ神話などからの想像か。
作者は諏訪在住。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.12第一面より引用掲載させていただきました。
氷に上(のぼ)る魚の眼の剣なす 篠遠良子『硝子の時間』

「魚氷に上る」という季語がある。二月半ばの時候に関し、中国伝来の民間の暦から江戸の歳時記『滑稽雑談』などに取り入れられた。初春の陽気に魚が泳ぎ出し、氷に躍り出るという。
掲句はその魚の目が剣のように鋭いと空想の季語に緊迫感を付加し現実味を出したもの。同一季語にこんな句もある。
〈魚は氷に上り人魚になりたき子〉アンデルセンの童話『人魚姫』やギリシャ神話などからの想像か。
作者は諏訪在住。(宮坂静生)
2025年02月12日
紅梅
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.12第一面より引用掲載させていただきました。
紅梅の花芽を残し枝伐れば切り口までも紅の差す
佐々木剛輔『邂逅』

紅梅の木の枝先に、花の芽が膨らんでいる。それを際立たせるために、作者は徒長枝を伐ったのだろう。
枝の切り口を見る。すると、その断面は紅の色に滲んでいる。
この紅が枝先まで運ばれ、やがて花を赤く染めるのだ。作者はそう思う。
開花に向けて、見えないところで営々と努力している直物のいとなみに、作者は胸打たれたのだ。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.02.12第一面より引用掲載させていただきました。
紅梅の花芽を残し枝伐れば切り口までも紅の差す
佐々木剛輔『邂逅』

紅梅の木の枝先に、花の芽が膨らんでいる。それを際立たせるために、作者は徒長枝を伐ったのだろう。
枝の切り口を見る。すると、その断面は紅の色に滲んでいる。
この紅が枝先まで運ばれ、やがて花を赤く染めるのだ。作者はそう思う。
開花に向けて、見えないところで営々と努力している直物のいとなみに、作者は胸打たれたのだ。(大辻隆弘)
2025年02月08日
うぐいす
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.08第一面より引用掲載させていただきました。
鶯や餅に糞する縁のさき 芭蕉『葛の松原』

鶯の瞬間の動きを捉まえる。そこが日常の卑俗さを救い、野卑となっていない。あらあらと驚くさまで鶯の粗相を赦(ゆる)すばかりでなく、笑いに転じるおかしみがある。偶然なアクシデントだ。
花に螢という和歌の世界から俳諧へということを強調し過ぎると、作為を意識させられ面白くない。
あられにでもしようと、正月過ぎの縁先に餅を干したのであろう。
「や」は「の」に近く軽い。それにしても鶯が餅に糞するとは可愛らしいではないか。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.08第一面より引用掲載させていただきました。
鶯や餅に糞する縁のさき 芭蕉『葛の松原』

鶯の瞬間の動きを捉まえる。そこが日常の卑俗さを救い、野卑となっていない。あらあらと驚くさまで鶯の粗相を赦(ゆる)すばかりでなく、笑いに転じるおかしみがある。偶然なアクシデントだ。
花に螢という和歌の世界から俳諧へということを強調し過ぎると、作為を意識させられ面白くない。
あられにでもしようと、正月過ぎの縁先に餅を干したのであろう。
「や」は「の」に近く軽い。それにしても鶯が餅に糞するとは可愛らしいではないか。(宮坂静生)
2025年02月07日
カラオケBOX
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.07第一面より引用掲載させていただきました。
カラオケに遅れてやってきた奴に降ってきたよと報される雪 村上健志『芸人短歌』

漫才コンビのフルーツポンチで活躍し、最近は俳句でおなじみの作者。短歌もなかなかの腕前だ。
芸人の短歌を集めたアンソロジー『芸人短歌』のなかで、こんな歌を披露している。
密室のカラオケボックス。仲間の一人が遅刻してくる。ドアをあけるなり「遅れてゴメン、降ってきちゃって」と彼は言う。その一言によって外が雪になったことを知る仲間たち。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.02.07第一面より引用掲載させていただきました。
カラオケに遅れてやってきた奴に降ってきたよと報される雪 村上健志『芸人短歌』

漫才コンビのフルーツポンチで活躍し、最近は俳句でおなじみの作者。短歌もなかなかの腕前だ。
芸人の短歌を集めたアンソロジー『芸人短歌』のなかで、こんな歌を披露している。
密室のカラオケボックス。仲間の一人が遅刻してくる。ドアをあけるなり「遅れてゴメン、降ってきちゃって」と彼は言う。その一言によって外が雪になったことを知る仲間たち。(大辻隆弘)
2025年02月06日
薄氷
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.06第一面より引用掲載させていただきました。
本売りし日のしづけさよ薄氷 久保田哲子『翠隠』

薄氷は春。『新歳時記』(虚子編・昭和9年)に出る。実感に基づいた虚子の炯眼(けいがん)である。江戸時代の『俳諧歳時記栞草』は冬であった。中国の『詩経』に出る「薄氷を踏む」という冷や冷やした人為的な寒さを受け継いだもの。
掲句は季語が春か冬かで本を手放した後の「しづけさ」の気分が違う。春先の薄氷を見詰めることで、次のステップへ新たに踏み出す前の沈着な判断を想像する。さみしい句には違いないが、何かに挑戦する決意があろう。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.06第一面より引用掲載させていただきました。
本売りし日のしづけさよ薄氷 久保田哲子『翠隠』

薄氷は春。『新歳時記』(虚子編・昭和9年)に出る。実感に基づいた虚子の炯眼(けいがん)である。江戸時代の『俳諧歳時記栞草』は冬であった。中国の『詩経』に出る「薄氷を踏む」という冷や冷やした人為的な寒さを受け継いだもの。
掲句は季語が春か冬かで本を手放した後の「しづけさ」の気分が違う。春先の薄氷を見詰めることで、次のステップへ新たに踏み出す前の沈着な判断を想像する。さみしい句には違いないが、何かに挑戦する決意があろう。(宮坂静生)
Posted by ゴンザレスこと大西實 at
08:17
│Comments(0)
2025年02月05日
燗の酒のあて
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.05第一面より引用掲載させていただきました。
塩辛をなめぬる燗の酒をなめ贅とはかかる単純にあり 矢部雅之『Another Good Day!』

春は名のみ。夜はまだしんしんとして冷える。こういうとき、お酒の飲める人は、燗の酒が恋しくなるのだろう。
卓上には烏賊(いか)の塩辛。ぐい飲みにそそがれた温めの酒。それで晩酌をする。体のなかに、潮の香りと温かさがゆっくりと広がってゆく。そんなとき作者は「こんな贅沢(ぜいたく)が他のどこにあるのだ」という気分になる。下戸の私には羨ましいかぎりの陶然境(とうぜんさかい)。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.02.05第一面より引用掲載させていただきました。
塩辛をなめぬる燗の酒をなめ贅とはかかる単純にあり 矢部雅之『Another Good Day!』

春は名のみ。夜はまだしんしんとして冷える。こういうとき、お酒の飲める人は、燗の酒が恋しくなるのだろう。
卓上には烏賊(いか)の塩辛。ぐい飲みにそそがれた温めの酒。それで晩酌をする。体のなかに、潮の香りと温かさがゆっくりと広がってゆく。そんなとき作者は「こんな贅沢(ぜいたく)が他のどこにあるのだ」という気分になる。下戸の私には羨ましいかぎりの陶然境(とうぜんさかい)。(大辻隆弘)
Posted by ゴンザレスこと大西實 at
08:57
│Comments(0)
2025年02月04日
春の小川
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.04第一面より引用掲載させていただきました。
春水と水草互(みくさかたみ)に梳(くしけず)り
正木ゆう子『玉響』(たまゆら)

春の野川の岸辺が思い浮かぶ。
水草は、水中に生えている水草とも、岸辺にあり、絶えず春水に触れ、弄(もてあそ)ばれながら流されまいと留まっている草とも受け取られる。
「互に」とあるから後者であろうか。そこに互い違いの代わりばんこの秩序が感じられる。
春は雪解け水が一瞬一瞬に増える。流れる水も岸辺の草も相手により梳られる。水も整えられ、草も枯草が削がれる。地味な着眼であるが、春の訪れとは小さなドラマから始まる。心洗われる句だ。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.04第一面より引用掲載させていただきました。
春水と水草互(みくさかたみ)に梳(くしけず)り
正木ゆう子『玉響』(たまゆら)

春の野川の岸辺が思い浮かぶ。
水草は、水中に生えている水草とも、岸辺にあり、絶えず春水に触れ、弄(もてあそ)ばれながら流されまいと留まっている草とも受け取られる。
「互に」とあるから後者であろうか。そこに互い違いの代わりばんこの秩序が感じられる。
春は雪解け水が一瞬一瞬に増える。流れる水も岸辺の草も相手により梳られる。水も整えられ、草も枯草が削がれる。地味な着眼であるが、春の訪れとは小さなドラマから始まる。心洗われる句だ。(宮坂静生)
2025年02月03日
春の雨
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.03第一面より引用掲載させて頂きました。
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや 若山牧水『くろ土』

立春である。今日からのちに降る雨は、一応、言葉の上では「春の雨」ということになる。
きのう降った雨。今日降っている雨。冷たさは変わらない。
が、今日が立春だと思うと、今日の雨は、こころなし、柔らかに感じられてくる。「きさらぎの雨」であり、「春のはじめの雨」だなあ、としみじみ思う。
暦の上だけのことなのに不思議なものだ。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.02.03第一面より引用掲載させて頂きました。
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや 若山牧水『くろ土』

立春である。今日からのちに降る雨は、一応、言葉の上では「春の雨」ということになる。
きのう降った雨。今日降っている雨。冷たさは変わらない。
が、今日が立春だと思うと、今日の雨は、こころなし、柔らかに感じられてくる。「きさらぎの雨」であり、「春のはじめの雨」だなあ、としみじみ思う。
暦の上だけのことなのに不思議なものだ。(大辻隆弘)
2025年02月01日
二月役者
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.01第一面より引用掲載させていただきました。
面体(めんてい)をつゝめど二月役者(のげつやくしゃ)かな 前田普羅『普羅句集』

芝居好きな作者。団十郎だ菊五郎だと自身も舞台に立つ夢を抱いていた。学生時代に坪内逍遥に師事し劇作家志望であった。役者にはなれなかっただけに、憧れは普羅を生涯、浪漫(ロマン)に生きる俳人にした。
掲句は大正2年の作であるが、醸す情緒は大川端を背後に明治の風情。ルビ「にげつやくしゃ」に込められた戯作(げさく)風の通人の粋(すい)に痺(しび)れる。
頭巾などで顔を隠しても体付きが役者だとわかる。どこかにおやか。そこに憧れ、好きとなれば芝居小屋に通い詰めであった。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.01第一面より引用掲載させていただきました。
面体(めんてい)をつゝめど二月役者(のげつやくしゃ)かな 前田普羅『普羅句集』

芝居好きな作者。団十郎だ菊五郎だと自身も舞台に立つ夢を抱いていた。学生時代に坪内逍遥に師事し劇作家志望であった。役者にはなれなかっただけに、憧れは普羅を生涯、浪漫(ロマン)に生きる俳人にした。
掲句は大正2年の作であるが、醸す情緒は大川端を背後に明治の風情。ルビ「にげつやくしゃ」に込められた戯作(げさく)風の通人の粋(すい)に痺(しび)れる。
頭巾などで顔を隠しても体付きが役者だとわかる。どこかにおやか。そこに憧れ、好きとなれば芝居小屋に通い詰めであった。(宮坂静生)