2025年02月28日

根開き

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.28第一面より引用掲載させていただきました。
信濃いま木の根開(ねあ)く頃父のこゑ    塚田佳都子『はなかつみ』

 根開きともいう。根回りがドーナツ形に雪解けが始まる。春遅い山国に春の来る先触れ。父のいる信濃がふるさとか。木の根元に開いた穴の底から父の声が聞こえる。
 私にも〈逝く母を父が迎へて木の根明く〉という句がある。私の幻想では根開きの穴の奥には他界がある。掲句ではふるさとがある。
 同類の発想ではあるが、身近な木や草が媒介になり、遙かなものへの思いが広がる。春先にはそんな思いがしきりにする。自然が助けてくれる。人間は一人ではない。(宮坂静生)
 
  


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2025年02月25日

春の魚と鳥

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.25第一面より引用掲載させていただきました。
魚はこゑ鳥は言葉を欲りて春   山本薫『ときに鳥』

 きゅと鳴く魚、けきょけきょと啼く鳥。魚は声を欲しがっている。鳥は言葉があればいいなと盛んに囀(さえず)る。春はすべてのものの本性が目覚めるときだ。
 生きものへの気付きに、作者の大らかで積極的な生き方が感じられ明るい。声と言葉は人間の最高の表現ツール。道具というより、いのちそのものかもしれない。〈片栗は咲き出でし身をいぶかしむ〉という句もある。堅香子(かたかご)の花の身を捩(よじ)るような戦(そよ)ぎにいのちを感じているのもいい。(宮坂静生)
  


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2025年02月21日

焼き畑農業

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.21第一面より引用掲載させていただきました。
焼畑のあと雨が降り雪が飛び   綾部仁喜『沈黙』

 畑を焼き、害虫を殺(あや)め、草灰を撒く。いい具合に木の芽起こしの雨に見舞われたかと喜ぶも仇(あだ)。雪が舞う。ままならないのは人の世ばかりではない。造物主は生きものの舞台である自然こそ、人知を超えた不思議そのものであることを気付かせてくれる。どんなに人工知能のの時代になっても、自然を人間は意のままに支配できない。こんな句がある。
〈冴え返る生生世世(しょうじょうせぜ)を一瞬に〉
暖かくなり、また寒さがぶり返す。これが人の世であり、それが自然だという。(宮坂静生)
  


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2025年02月18日

手話

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.18第一面より引用掲載させていただきました。
手話の語彙少ないままに話する〈意気地なし〉はどうすると言ひつつ   坂和生子『手話がある』

 作者の坂は聴覚に障がいを持つ。残されたかすかな聴覚を頼りに、新たなコミュニケーションの手段として、手話を学び続けている。
 耳が聞こえない人に向かって、「意気地なし」という言葉を伝えようとする。強い言葉で相手を励まそうとしたのだろうか。が、まだ自分の手話の語彙(ごい)のなかには、その語がない。「手はどう動かすの」。そう尋ねながら、手話の言葉を体得してゆく。(大辻隆弘)
  


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2025年02月14日

バレンタイン

おはよう!「今日の名歌と名句」
※日本農業新聞2025.02.14第一面より引用掲載させていただきました。  
『万の枝けぶらふバレンタインの日』 石田郷子『万の枝』

 女性が男性にチョコレートを贈る。お洒落な日のイメージだけが日本では独り歩きしてこの日が哀しい日とは大方は忘れられている。 戦の最中、ローマ皇帝は兵士の結婚を禁止したのに反し、ローマ司教バレンタインが愛の崇高さを守り、式を挙行したことにより殺される。
 掲句はこの謂われの飛躍を上の句にけぶるように滲ませる。西欧流のバター臭さがない。秘めた思いが冬木の虜を潤ませるようだ。やがて芽吹く安らぎが用意された心の豊かさが句中に拡がる。(宮坂静生)
  


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2025年02月12日

氷魚

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.12第一面より引用掲載させていただきました
氷に上(のぼ)る魚の眼の剣なす  篠遠良子『硝子の時間』

 「魚氷に上る」という季語がある。二月半ばの時候に関し、中国伝来の民間の暦から江戸の歳時記『滑稽雑談』などに取り入れられた。初春の陽気に魚が泳ぎ出し、氷に躍り出るという。
 掲句はその魚の目が剣のように鋭いと空想の季語に緊迫感を付加し現実味を出したもの。同一季語にこんな句もある。
〈魚は氷に上り人魚になりたき子〉アンデルセンの童話『人魚姫』やギリシャ神話などからの想像か。
 作者は諏訪在住。(宮坂静生)
  


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2025年02月12日

紅梅

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.12第一面より引用掲載させていただきました。
紅梅の花芽を残し枝伐れば切り口までも紅の差す  
     佐々木剛輔『邂逅』


 紅梅の木の枝先に、花の芽が膨らんでいる。それを際立たせるために、作者は徒長枝を伐ったのだろう。
 枝の切り口を見る。すると、その断面は紅の色に滲んでいる。
 この紅が枝先まで運ばれ、やがて花を赤く染めるのだ。作者はそう思う。
 開花に向けて、見えないところで営々と努力している直物のいとなみに、作者は胸打たれたのだ。(大辻隆弘)
  


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2025年02月08日

うぐいす

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.08第一面より引用掲載させていただきました。
鶯や餅に糞する縁のさき     芭蕉『葛の松原』

 鶯の瞬間の動きを捉まえる。そこが日常の卑俗さを救い、野卑となっていない。あらあらと驚くさまで鶯の粗相を赦(ゆる)すばかりでなく、笑いに転じるおかしみがある。偶然なアクシデントだ。
 花に螢という和歌の世界から俳諧へということを強調し過ぎると、作為を意識させられ面白くない。
 あられにでもしようと、正月過ぎの縁先に餅を干したのであろう。
「や」は「の」に近く軽い。それにしても鶯が餅に糞するとは可愛らしいではないか。(宮坂静生)
  


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2025年02月07日

カラオケBOX

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.07第一面より引用掲載させていただきました。
カラオケに遅れてやってきた奴に降ってきたよと報される雪   村上健志『芸人短歌』

 漫才コンビのフルーツポンチで活躍し、最近は俳句でおなじみの作者。短歌もなかなかの腕前だ。
 芸人の短歌を集めたアンソロジー『芸人短歌』のなかで、こんな歌を披露している。
 密室のカラオケボックス。仲間の一人が遅刻してくる。ドアをあけるなり「遅れてゴメン、降ってきちゃって」と彼は言う。その一言によって外が雪になったことを知る仲間たち。(大辻隆弘)
  


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2025年02月04日

春の小川

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.04第一面より引用掲載させていただきました。
春水と水草互(みくさかたみ)に梳(くしけず)り   
    正木ゆう子『玉響』(たまゆら)


 春の野川の岸辺が思い浮かぶ。   
 水草は、水中に生えている水草とも、岸辺にあり、絶えず春水に触れ、弄(もてあそ)ばれながら流されまいと留まっている草とも受け取られる。
 「互に」とあるから後者であろうか。そこに互い違いの代わりばんこの秩序が感じられる。
 春は雪解け水が一瞬一瞬に増える。流れる水も岸辺の草も相手により梳られる。水も整えられ、草も枯草が削がれる。地味な着眼であるが、春の訪れとは小さなドラマから始まる。心洗われる句だ。(宮坂静生)
  


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