2025年02月03日
春の雨
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.03第一面より引用掲載させて頂きました。
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや 若山牧水『くろ土』

立春である。今日からのちに降る雨は、一応、言葉の上では「春の雨」ということになる。
きのう降った雨。今日降っている雨。冷たさは変わらない。
が、今日が立春だと思うと、今日の雨は、こころなし、柔らかに感じられてくる。「きさらぎの雨」であり、「春のはじめの雨」だなあ、としみじみ思う。
暦の上だけのことなのに不思議なものだ。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.02.03第一面より引用掲載させて頂きました。
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや 若山牧水『くろ土』

立春である。今日からのちに降る雨は、一応、言葉の上では「春の雨」ということになる。
きのう降った雨。今日降っている雨。冷たさは変わらない。
が、今日が立春だと思うと、今日の雨は、こころなし、柔らかに感じられてくる。「きさらぎの雨」であり、「春のはじめの雨」だなあ、としみじみ思う。
暦の上だけのことなのに不思議なものだ。(大辻隆弘)
2025年02月01日
二月役者
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.02.01第一面より引用掲載させていただきました。
面体(めんてい)をつゝめど二月役者(のげつやくしゃ)かな 前田普羅『普羅句集』

芝居好きな作者。団十郎だ菊五郎だと自身も舞台に立つ夢を抱いていた。学生時代に坪内逍遥に師事し劇作家志望であった。役者にはなれなかっただけに、憧れは普羅を生涯、浪漫(ロマン)に生きる俳人にした。
掲句は大正2年の作であるが、醸す情緒は大川端を背後に明治の風情。ルビ「にげつやくしゃ」に込められた戯作(げさく)風の通人の粋(すい)に痺(しび)れる。
頭巾などで顔を隠しても体付きが役者だとわかる。どこかにおやか。そこに憧れ、好きとなれば芝居小屋に通い詰めであった。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.02.01第一面より引用掲載させていただきました。
面体(めんてい)をつゝめど二月役者(のげつやくしゃ)かな 前田普羅『普羅句集』

芝居好きな作者。団十郎だ菊五郎だと自身も舞台に立つ夢を抱いていた。学生時代に坪内逍遥に師事し劇作家志望であった。役者にはなれなかっただけに、憧れは普羅を生涯、浪漫(ロマン)に生きる俳人にした。
掲句は大正2年の作であるが、醸す情緒は大川端を背後に明治の風情。ルビ「にげつやくしゃ」に込められた戯作(げさく)風の通人の粋(すい)に痺(しび)れる。
頭巾などで顔を隠しても体付きが役者だとわかる。どこかにおやか。そこに憧れ、好きとなれば芝居小屋に通い詰めであった。(宮坂静生)
2025年01月31日
梅の咲き始め
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.31第一面より引用掲載させていただきました。
斥候のごとく咲く梅一輪のあたたかき白打ちて雪舞う
井谷まさみち『めぐる七曜』

梅が咲き始めた。凛とした白が目にしみる。
ほかの花にさきがけて、今年の春を探るように咲く梅。それはまるで、恐る恐る敵状を探る「斥候」(物見)のよう。その物見のような花の花びらを、冷たく打ち捉えて雪が降る。そんな早春の緊張感が伝わってくる歌だ。
一月も今日で終わる。明日から二月。春はもう鼻の先までやってきている。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.01.31第一面より引用掲載させていただきました。
斥候のごとく咲く梅一輪のあたたかき白打ちて雪舞う
井谷まさみち『めぐる七曜』

梅が咲き始めた。凛とした白が目にしみる。
ほかの花にさきがけて、今年の春を探るように咲く梅。それはまるで、恐る恐る敵状を探る「斥候」(物見)のよう。その物見のような花の花びらを、冷たく打ち捉えて雪が降る。そんな早春の緊張感が伝わってくる歌だ。
一月も今日で終わる。明日から二月。春はもう鼻の先までやってきている。(大辻隆弘)
2025年01月30日
雪の八ヶ岳
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.30第一面より引用掲載させていただきました。
まなかひに八ケ岳真白なり山の講 伊藤美惠『八ヶ岳真白』

八ケ岳の麓に住む作者。山ほど気分を左右する自然はない。海の明るさは人を開放的にする。くよくよさせない。ところが山は日常にこまめに関わってくる。地域により山への関わりがまちまちで、それは山の講に現れる。山の講では山神様を祀る。
木地師や木工業者や猟師あるいは農民が関わる。祭日は旧暦11月申(さる)の日から始まり、いろいろ。
目の前に雪の八ケ岳が真っ白。
山の講に山は一段と冴(さ)える。
〈綱なす大気の低ひ春よ来い〉と山に祈るのである。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.01.30第一面より引用掲載させていただきました。
まなかひに八ケ岳真白なり山の講 伊藤美惠『八ヶ岳真白』

八ケ岳の麓に住む作者。山ほど気分を左右する自然はない。海の明るさは人を開放的にする。くよくよさせない。ところが山は日常にこまめに関わってくる。地域により山への関わりがまちまちで、それは山の講に現れる。山の講では山神様を祀る。
木地師や木工業者や猟師あるいは農民が関わる。祭日は旧暦11月申(さる)の日から始まり、いろいろ。
目の前に雪の八ケ岳が真っ白。
山の講に山は一段と冴(さ)える。
〈綱なす大気の低ひ春よ来い〉と山に祈るのである。(宮坂静生)
2025年01月29日
薄雪
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞12025.01.29第一面より引用掲載させていただきました。
薄雪を踏みしめゆけり過去世より生きとし生けるものの足音 中井龍彦『國つ神』

作者は奈良県吉野の山中に住む歌人。この季節、吉野の山々もうっすらと雪に覆われるのだ。
山道の土に薄らに積もった雪。それを踏みしめながら、朝、仕事場に向かう。ひややかな足裏の感触。耳に届くサクサクという音。それらを感じながら作者は、自分と同じように、この道を歩いて行った無数の命を思う。
自分は過去の延長としてここにいる。そんな厳粛な気分になる。(大辻隆弘)
※日本農業新聞12025.01.29第一面より引用掲載させていただきました。
薄雪を踏みしめゆけり過去世より生きとし生けるものの足音 中井龍彦『國つ神』

作者は奈良県吉野の山中に住む歌人。この季節、吉野の山々もうっすらと雪に覆われるのだ。
山道の土に薄らに積もった雪。それを踏みしめながら、朝、仕事場に向かう。ひややかな足裏の感触。耳に届くサクサクという音。それらを感じながら作者は、自分と同じように、この道を歩いて行った無数の命を思う。
自分は過去の延長としてここにいる。そんな厳粛な気分になる。(大辻隆弘)
2025年01月29日
牡蠣(かき)
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.28第一面より引用掲載させていただきました。
まだ夢を見てゐる牡蠣(かき)を食ひにけり 関悦史『新撰21』

新鮮な牡蠣を食べた満足感に一抹の忸怩(じくじ)たる思いもある。そこに若さへの信頼感を抱く。ただ美味かったという句ではない。
40歳代の作者。介護に暮れた祖母の没後と前書が付く。〈灯(とも)らぬ家は寒月に浮くそこへ帰る〉という句に共感していた。正義感のような倫理感のような青年の矜持に好感を持っていたのである。
私も牡蠣好きであるが、梅崎春生の短編「蜆」を読んで以来貝類のさみしさに気が回ってしまうのである。人間の残酷さに。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.01.28第一面より引用掲載させていただきました。
まだ夢を見てゐる牡蠣(かき)を食ひにけり 関悦史『新撰21』

新鮮な牡蠣を食べた満足感に一抹の忸怩(じくじ)たる思いもある。そこに若さへの信頼感を抱く。ただ美味かったという句ではない。
40歳代の作者。介護に暮れた祖母の没後と前書が付く。〈灯(とも)らぬ家は寒月に浮くそこへ帰る〉という句に共感していた。正義感のような倫理感のような青年の矜持に好感を持っていたのである。
私も牡蠣好きであるが、梅崎春生の短編「蜆」を読んで以来貝類のさみしさに気が回ってしまうのである。人間の残酷さに。(宮坂静生)
2025年01月28日
延長ボタン
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.27第一面より引用掲載させていただきました。
ストーブの延長ボタン押すように再び燃えることありてよし
大澤澄子『いつの日か幸せになっていいけれど今すぐなってかまわないのよ』

ストーブを点火して三時間ほど経つと一旦、火が消える。安全を考慮してくれているのだろう。延長ボタンを押してもう一度、ストーブに火を入れる。
ふたたび点火した作者はこう思う。私の人生にもこんな延長ボタンがあればいいのに、と。若かった日のようにもう一度、燃え上がる夢や恋があってもいい。あってほしい。そんな熱い気持ちがよみがえってくる。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.01.27第一面より引用掲載させていただきました。
ストーブの延長ボタン押すように再び燃えることありてよし
大澤澄子『いつの日か幸せになっていいけれど今すぐなってかまわないのよ』

ストーブを点火して三時間ほど経つと一旦、火が消える。安全を考慮してくれているのだろう。延長ボタンを押してもう一度、ストーブに火を入れる。
ふたたび点火した作者はこう思う。私の人生にもこんな延長ボタンがあればいいのに、と。若かった日のようにもう一度、燃え上がる夢や恋があってもいい。あってほしい。そんな熱い気持ちがよみがえってくる。(大辻隆弘)
2025年01月25日
傀儡女
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.25第一面より引用掲載させていただきました。
働きて我傀儡女(くぐつめ)よ今日もゆく 星野立子『春雷』

作者は虚子の次女。ゆるぎない矜持(きょうじ)の句である。内心にこれくらいの気位がなければ、虚子に仕え独自な句境を拓いていくことはできない。
傀儡女は正月に人形を操りながら門付け祝言をして回る大道芸人。木偶廻(きぐまわ)しともいう。句会の選句を初め一切の世話役を傀儡女とは卑下した気持ちがある。私はそこに作者の気遣いの真剣さを感じ驚く。
私は俳句に携わることは楽しみ。働くという意識も希薄なだけに、「今日もゆく」の徒労感に作者の誠実な職業論理を感じた。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.01.25第一面より引用掲載させていただきました。
働きて我傀儡女(くぐつめ)よ今日もゆく 星野立子『春雷』

作者は虚子の次女。ゆるぎない矜持(きょうじ)の句である。内心にこれくらいの気位がなければ、虚子に仕え独自な句境を拓いていくことはできない。
傀儡女は正月に人形を操りながら門付け祝言をして回る大道芸人。木偶廻(きぐまわ)しともいう。句会の選句を初め一切の世話役を傀儡女とは卑下した気持ちがある。私はそこに作者の気遣いの真剣さを感じ驚く。
私は俳句に携わることは楽しみ。働くという意識も希薄なだけに、「今日もゆく」の徒労感に作者の誠実な職業論理を感じた。(宮坂静生)
2025年01月24日
冬の椿の葉
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.24第一面より引用掲載させていただきました。
にんげんの愚痴を嘉(よみ)してゐるごとくつらつら椿冬の葉の照り 高野公彦『流木』

椿が今をさかりと咲いている。花の紅も美しいが、その背後のつやつやとした葉の緑がなんともまぶしい。その緑は、つらつらと輝いているかのようだ。
その輝きの前に立つと、自分の悩みが馬鹿らしくなってくる。私は何でこんな小さな事にこだわっているのか。そんな気分になる。
椿の葉の輝きは、人の愚かさをありのままに受け入れ、祝福してくれているのだ。(大辻隆弘)
※日本農業新聞2025.01.24第一面より引用掲載させていただきました。
にんげんの愚痴を嘉(よみ)してゐるごとくつらつら椿冬の葉の照り 高野公彦『流木』

椿が今をさかりと咲いている。花の紅も美しいが、その背後のつやつやとした葉の緑がなんともまぶしい。その緑は、つらつらと輝いているかのようだ。
その輝きの前に立つと、自分の悩みが馬鹿らしくなってくる。私は何でこんな小さな事にこだわっているのか。そんな気分になる。
椿の葉の輝きは、人の愚かさをありのままに受け入れ、祝福してくれているのだ。(大辻隆弘)
2025年01月23日
冬の薔薇
おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2025.01.23第一面より引用掲載させていただきました。
密漁のごとくに濡れて冬の薔薇 佐藤文香『海藻標本』

山国育ちの私には密漁のイメージが貧弱だ。先夜もオホーツク海での密漁のテレビを見た。深夜から早朝にかけて必死の作業だ。新月のあかりだけを頼りの厳冬の光景に圧倒された。夏であればずぶ濡れ。
掲句は濡れた冬薔薇への密漁の比喩が特異である。やっと手に入れた濡れた冬薔薇とは薔薇への拘(こだわ)り、矜持(きょうじ)がある。華やかな花の代表である薔薇への密漁の比喩は薔薇が持つ高貴な気位を削いでいる。私の秘かな拘りを冬の薔薇に托して表白したものであろう。(宮坂静生)
※日本農業新聞2025.01.23第一面より引用掲載させていただきました。
密漁のごとくに濡れて冬の薔薇 佐藤文香『海藻標本』

山国育ちの私には密漁のイメージが貧弱だ。先夜もオホーツク海での密漁のテレビを見た。深夜から早朝にかけて必死の作業だ。新月のあかりだけを頼りの厳冬の光景に圧倒された。夏であればずぶ濡れ。
掲句は濡れた冬薔薇への密漁の比喩が特異である。やっと手に入れた濡れた冬薔薇とは薔薇への拘(こだわ)り、矜持(きょうじ)がある。華やかな花の代表である薔薇への密漁の比喩は薔薇が持つ高貴な気位を削いでいる。私の秘かな拘りを冬の薔薇に托して表白したものであろう。(宮坂静生)