2024年03月13日

なまけもの

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.13第一面より引用掲載させていただきました。
永き日を嘆くも憂きか樹獺(なまけもの)   高橋睦郎『花や鳥』

 一生の間樹にぶら下がって暮らす「なまけもの」。樹に獺(かわうそ)と書く。哺乳類である。呼称はなまけものでも想像しただけで、ご苦労さんと一言声を掛けたくなる。私は拝顔したことはないので、パンダの貌のような縫いぐるみの剽軽貌(ひょうきんがお)を想像するばかり。
 掲句の作者は詩人であるが、能・狂言からオペラの台本まで書かれる。働き者で、なまけもの好きが面白い。
 春の日永のぶら下がりは思うさえ物憂い。食物は新芽が好物。排泄・排尿は週に一度、樹から降りて地上で済ますとか、人臭い。(宮坂静生)

  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:26Comments(0)出来事

2024年03月11日

3・11除染土

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.11第一面より引用掲載させていただきました。
フレコンバックの中なる
 春の土のこゑ
     正木ゆう子『玉響』

 激震の3・11から13年目を迎える。除染土が黒いフレコンバックに入れられ畔に積み上げられてからも同じ歳月が経つ。
 同じ土でありながら、袋の中は春の土とは呼べないか。放射能ストロンチウムが体内に入り人体に及ぼす害が指摘されて久しい。本来、土にはなんの罪もない。春になれば春の土であったはず。
 お雛さまは暗い函から一年に一度出されても、汚染土は日の目を見ることはない。早く出してと叫んでいるに違いない。土を救え。(宮坂静生)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 09:36Comments(0)出来事

2024年03月09日

ひよこが生まれる

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.09第一面より引用掲載させていただきました
いいのいいのあなたはここにいていいの ひよこ生まれるひだまりだもの  東直子『魚を抱いて』

 卵がかえってひよこが生まれてくる。春の陽ざしのなかで彼らは世の息を吸う。手つかずの命がそこにある。陽の光のなかですべての生命は輝いて見える。どんなに打ちひしがれていても、あなたはここにいていい。そんな赦(ゆる)しの声を作者は耳に聞いたのかもしれない。
 『魚を抱いて』は映画やドラマに触発された歌とエッセイを集めた一冊。この歌は『あ、青春』(1998)という映画を見たときの感想。(大辻隆弘)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:07Comments(0)出来事

2024年03月08日

雪解け氷

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.08第一面より引用掲載させていただきました。
雪解氷ぴしと毛鉤(けばり)に打たれる   中村雅樹『解纜(かいらん)』

 同僚に釣りが好きな統計学者がいた。雪解けを待ち構えて北アルプスの麓へ毛鉤を投げる。
 「ぴし」がいい。沸き立つ奔流はダメ。岸の淀みと奔流との微妙な堺(さかい)を見つける。瞬間が勝負らしい。雪解け山女が食らいつくのは最初の一発だ。何遍も同じところでぴちゃぴちゃやらない。
 芽吹き前の白樺の木の間から遠望する。影を恐れ、音には敏感な空腹な魚たち。早春は素顔の季節。初心になって初心を誘う。毛鉤の奢(おご)りが面白い。(宮坂静生)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:21Comments(0)出来事

2024年03月07日

確定申告

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.07第一面より引用掲載させていただきました。
伸びをして国税局より出てくる若き官吏の脚ながきかな  広坂早苗『未明の窓』

 確定申告の季節でである。毎年の事とはいえ気が重い。
 税務署も忙しい季節なのだろう。昼休み、名古屋国税局の玄関から若い職員が外へ出る。厳しい業務から解放されて伸びを一つする。彼はまだ若い。スラリとした長い脚を開いて春先の街を闊歩(かっぽ)してゆく。その姿は意外に爽やかだ。
 作者は愛知県の高校教師。職責を担いそれに悔い従事することの充実感を誰よりも知っている人。(大辻隆弘)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:46Comments(0)出来事

2024年03月06日

蛙コート

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.05第一面より引用掲載させていただきました。
春弥生あをぞらコオト着てわれは蛙コオトの姉に
会ひます 
  笠井朱実『ふらんすひひらぎ』

 今日は啓蟄。いよいよ春が本格的に街にやってくる。
 春はいろどりの季節。暗い色の厚手のコートを脱いで春用コートに着替える。心まで軽くなる。今日はひさしぶりになかよしの姉と会うのだ。作者が選んだのは青い「あをぞらコオト」を着てくるにちがいない。
 明るい色の服を着て、春先の街をさっそうと歩く姉妹の姿が目に見えるようだ。(大辻隆弘)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 09:55Comments(0)出来事

2024年03月02日

枕木交換

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.02第一面より引用掲載させていただきました。
枕木に沙(すな)のごとくにひかる霜徹夜作業のをはると踏みゆく   御供平佶『河岸段丘』

 かつて日本の国鉄には「鉄道公安」という部署があった。列車や駅舎の公安を守るための部署である。作者はその鉄道公安官を長く努めた。」
 この歌は昭和四十年代の歌。鉄道の治安を守るために徹夜の業務をこなす。夜明け前、やっとその業務が終わる。帰路に就く。レールの下の枕木の上におりた霜を踏んでゆく。
「沙のごとくにひかる」という一語から夜明けの鉄路の冷え冷えとした感触が伝わってくる。(大辻隆弘)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:57Comments(0)出来事

2024年03月01日

竹灯篭

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.03.01第一面より引用掲載させていただきました。
三月や竹燈籠の魂鎮(たましずめ)   萩原都美子『至恩』

 3月の鎮魂句とあれば、東日本大震災への追悼句であろう。時代は次々と歳月に関するイメージを塗り替えてゆく。お雛さまの彌生(やよい)3月の情緒を吹き飛ばしてしまった。元旦は能登半島地震のイメージを抜きに考えられないように。
 作者は秋田在住。竹に穴をあけ中に灯を入れた素朴な「竹燈籠」を作り、3・11の死者の魂よ安らかれと鎮めたい。昨年3月までの死者、行方不明者、震災関連の死者を含めて、2万2千2百余名。卒業の3月は鎮魂の月に変わる。(宮坂静生)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 16:56Comments(0)出来事

2024年02月29日

卒業式

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.02.29第一面より引用掲載させていただきました。
白梅の香る石段駆け上がる若人二人鞄(かばん)揺らして   藤本悦子『山桜』

 二月は逃げる。その言葉どおり今日で二月も終わり。
 あす三月一日は、各地の公立高校で卒業式が行われる。今日あたり、その予行演習で高校三年生が久しぶりに学校に集まっていることだろう。
 この歌でも歌われている二人もそんな若者かもしれない。使いなれた鞄をゆらして彼らは石段を駆けあがってゆく。あたりは満開の梅。石段の上には、もう三月の空がひろがっている。(大辻隆弘)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:24Comments(0)出来事

2024年02月28日

戦争の恐怖

おはよう!今日の名歌と名句
※日本農業新聞2024.02.28第一面より引用掲載させていただきました。
一生に戦火いくたび鳥帰る     柿本多映『ひめむかし』

 昭和3年生まれの作者。元気である。生家は大津の三井寺。
 ウクライナもガザ・イスラエルの戦争も終息の目途が立たない。世界は戦争だらけ。大方の人類は戦争嫌いなのにどうして戦争がなくならないのか。
 長い私の半生を振り返ると、戦争に明け暮れている。男たちが起こし、女たちはひきずられていく。世界中の女が一斉に戦争はNOと言えないのか。鳥は自由。しかし鳥も戦争の国へ帰っていくだろうか。鳥の嘆きを思う」ばかりだ。(宮坂静生)
  


Posted by ゴンザレスこと大西實 at 08:33Comments(0)出来事