「罪と罰」
「全世界が、ある、怖ろしい、見たことも聞いたこともない疫病の生贄(いけにえ)になる運命にあった」(亀山郁夫訳)。
▼新型コロナに恐れおののく世界を見通したようだ▼
ドストエフスキーの『罪と罰』の終章で主人公は、犯した罪に向き合い、悪夢にうなされる。
▼疫病を引き起こす微生物に取り付かれると、人は自分こそ正義と思い込み、他人と争う。その微生物は人の心を侵食し続ける▼ロシア文学者の江川卓氏は、神に代わって微生物を、人類委に終末をもたらす究極原因に押し上げたと指摘する。
『謎解き「罪と罰」』(新潮選書)の解説をいま読み返した。神への畏れは薄れ、ウイルスが恐ろしい存在になった▼コロナが医学的に怖いのはもちろんだが、社会の闇を大きくしたところに、もう一つの怖さがある。明治大学の小田切徳美教授は「様々な局面で分断が進んでいる」と憂慮した。所得格差は広がり、自分の偏った正義を振りかざす「自粛警察」もやまない▼
▼小説の主人公は、自らの傲慢さが引き起こした罪と罰を受け入れ、復活へ歩み出した。自分は絶対正しいという病がこの国の、特に中枢にはびこっていないか。その思い込みが改まらないことには、コロナの終息は見えない。
※日本農業新聞第一面「四季」より引用させていただきました。
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